【手術解説】全人工膝関節置換術とは
- WATARI
- 2021年6月23日
- 読了時間: 6分
更新日:2023年10月19日

全人工膝関節置換術とは、どのような手術なのでしょうか。全人工膝関節置換術の適応、手術の詳細、術後合併症、術後のリハビリと生活についてご紹介します。
全人工膝関節置換術
全人工股関節置換術は、主に末期の変形性膝関節症に対して行われる手術であり、全人工股関節置換術に次いでよく行われる手術です。
全人工膝関節置換術とは、変形性膝関節症や関節リウマチなどによる膝関節の損傷・変形に対して、膝の関節(膝蓋大腿関節・脛骨大腿骨関節)の表面を取り除き、人工関節に置き換える手術のことを示します。
全人工膝関節置換術の目的は、障害膝の除痛、支持性、可動性、耐久性の獲得を求め、患者さんにとって、より適したADLとQOLを再現することにあります。
全人工膝関節置換術は、整形外科手術の中で最も成功している手術の1つです。
全人工膝関節置換術の適応
全人工膝関節置換術の適応は、主に変形性膝関節症ですが、その基礎となる疾患としては、炎症性関節炎、骨折(外傷後の変形性膝関節症/奇形)、異形成、および悪性腫瘍も含まれます。
1年以上積極的な運動療法や保存療法を行っても症状が増悪あるいは不変であり、日常生活に支障をきたす場合、手術が行われます。
変形性膝関節症の治療は、全人工膝関節置換術だけではありません。 変形性膝関節症による内反・外反変形を矯正し、荷重面を均等化する手術として、脛骨高位骨切り術があります。
この手術は、免荷期間が長期に及ぶため、高齢者には向かないという特徴があります。
また、膝関節固定術もありますが、ADLの障害が大きいため適応は稀です。
全人工膝関節置換術は、変形性膝関節症に対して最も多く適応となる手術であり、全人工股関節置換術のような脱臼のリスクが少ないのが特徴です。
全人工膝関節置換術の実際
全人工膝関節置換術の流れと、重要な点についてご紹介します。
皮切
膝関節の皮切には、正中切開、内側弓状切開、外側弓状切開があります。 正中切開は欧米でよく行われ、血行動態的にも良好ではありますが、日本人のように膝をつく習慣のある生活様式では、疼痛を生じる可能性があり、適しません。
そのため、一般的には内側弓状切開が用いられますが、しびれや知覚鈍麻、疼痛を訴える症例 が少なくないため、外側弓状切開を用いる場合もあります。
関節リウマチなど皮膚の脆弱性がある場合は皮膚の血行が良い正中切開が用いられます。
展開方法(関節内進入法)
関節内の進入法はいくつかあり、内側傍蓋切開法が最も一般的な切開方法です。 しかし、この方法は膝蓋骨の内側支帯を切開するため膝蓋骨の不安定性を生じ、膝蓋骨の外側 亜脱臼を生じる可能性があるため、外側支帯切開を行う必要性が増えます。
midvastus法は、膝蓋骨上縁で内側広筋を分離して膝蓋骨を翻転し、関節内に進入する方法であり、この方法では膝蓋骨の不安定性は生じず、外側支帯切開の頻度も減ります。
下肢アライメント
正しい立位アライメントは、荷重軸が大腿骨頭中心より膝関節の中央を通り、足関節の中央に至 る必要があります。
そのために手術前、患肢の立位全長正面のX線写真撮影を行い、そのX線像より、術前に大腿骨頭中心と膝関節顆間部中央点に引いた線を解剖軸とします。 機能軸と解剖軸のなす角度(通常5〜7°)を術前に計測しておきます。
骨切り
基本的には、①脛骨の骨切り、②大腿骨遠位の骨切り、③大腿骨後方の骨切り、④大腿骨前方の骨切りが必要となります。
機種の種類を問わず、大腿骨は前額面で解剖軸に対し約5〜10°の外反であり矢状面では0〜10°の屈曲位に挿入される必要があります。
脛骨の骨切りは、前額面で脛骨軸に対し内反や外反とならないように90±2°のほぼ直角である必要があります。
また、矢状面では各人工関節の機種により異なりますが、正常の関節面の後傾(0〜7°)にほぼ 一致する傾斜が必要となります。
靭帯バランス
適正な靭帯バランスの獲得は、全人膝工関節置換術において重要な基本手技です。 全人工膝関節置換術に際し、内外の靭帯バランス及び後方の靭帯バランスを整えるべき代表的な変形に内反変形、外反変形、屈曲拘縮があります。
全人工膝関節置換術後の合併症
全人工膝関節置換術後に生じる可能性のある主な合併症をご紹介します。
術後感染
術後感染は、全人工膝関節置換術の合併症として避けるべきものです。 頻度は、1〜3%と報告されています。
また、危険因子として、手術以前に骨折などの観血的手術を行っている例が最も多いことが報告されています。 また、他臓器からの感染、糖尿病コントロール不良例、術前からの皮膚疾患、頻回な関節内注射の既往などの危険因子があります。
術後感染治療で重要な点は早期発見、早期治療であると言えます。
人工関節周囲骨折
術後の骨折の原因は転倒によることがほとんどです。 全人工膝関節置換術後の骨折は0.3%〜2%と報告されています。
全人工膝関節置換術を受けた患者は高齢者が多いため転倒しやすく、骨の脆弱性を伴うことから骨折を生じやすいという状況にあります。
全人工膝関節置換術後、関節周囲の骨折が生じると再手術が必要になることが多く、最も多いのは大腿骨骨折です。
人工関節周囲のどの部位の骨折も、適正なアライメントの再建により再骨折を防止することが必要となります。
全人工膝関節置換術後のリハビリと日常生活
全人工股関節置換術におけるリハビリと、日常生活での注意点についてご紹介します。
リハビリテーション
全人工膝関節置換術におけるリハビリテーションは、術前と術後に行われます。
術前のリハビリテーション
術前のリハビリテーションとしては、術後に必要となる項目を中心に、上下肢の筋力強化、膝ROM訓練、松葉杖歩行練習などを行います。 特に大腿四頭筋訓練をしっかり行っておくことが重要となります。
術後のリハビリテーション
1日目は背もたれ無しの座位、2日目から端座位、3日目から車椅子座位動作を開始します。 術後2日目、ドレーン抜去後すぐに、CPM(関節拘縮予防のために持続的他動運動をする機械) を実施します。
また、術直後から大腿四頭筋訓練、SLRなどのベッド上訓練を開始します。 大腿四頭筋訓練は、膝下に枕を置き、それを押し付けるように力を入れて訓練します。 術後1週間の時点で全体重負荷となり、術後3週程で退院する流れとなります。 特に、ADLにおいて膝屈曲角度は重要で、120°〜130°の獲得を目指します。
日常生活の注意点
基本的には、退院後2〜3ヶ月程で痛みはなくなり、数カ月後にはほとんど元の生活に戻れるようになります。 ただ、退院後すぐに膝を過度に曲げたり負荷がかかると、前述した合併症を引き起こす可能性がありますので、徐々に慣らしていくことが大切です。
正座や、和式便座の使用など、膝屈曲角度が大きく負荷がかかる動作は控える必要があり、低い座位や浴槽内からの立ち上がり時には、小さめの台に座るなどして膝を曲げすぎないよう工夫 することが必要となります。
〈参考文献〉
1) 龍順之助.TKAの基本手術手技と問題点.日関病誌,29(2):147~156,2010
2)Varacallo M, Luo TD, Johanson NA.Total Knee Arthroplasty Techniques StatPearls. 2020.7.31
3)千田益生. 形性膝関節症における全人工膝関節置換術前後のリハビリテーション
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